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「しばふ村より」
【第二章】

【第六節】

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 意気消沈して重い足取りで帰宅した隼太の様子を見た家族は、彼の試みが不首尾に終わったことを悟って、皆何も言わずにそっとしておいてくれる。
いつもは煩い浪江も、昼に義姉に大声を出されたせいなのか何も言わずに黙っていた。
家族と一緒に夕食を取るのは苦痛だったが、母が「黙って俯いていても構わんから一緒に食べな」と言うのでその通りにするつもりで食卓を囲む。
実際、いつもの食事時であればあり得ないほど静かな夕食になってしまったが、黙って素知らぬ振りをしてくれる大人たちと違って、浪江だけは時折ちらちらと隼太の顔を見る。
相手にできる気がしなかったのでずっと無視していたものの、さすがになんとなく可哀想になってきた頃、やおら母が声を上げる。
「浪江、あんちゃんに聞きでこどあんだったら素直に聞いてみ」
その言葉に、声をかけられた浪江は救われたような顔になり、どうしたものかと思っていた隼太も少々ほっとする。
「あんちゃん、あんちゃんはやっぱり穂波に艦娘になって欲しぐねのか?」
やや恐る恐るだがはっきりとした声音で語られたその言葉に、意外なほど冷静に反応できる自分が少し意外だった。
「そだ、おれは行って欲しぐね」
「なんでだ? 穂波が死ぬかも知れねがらか?」
「んだ、戦争なんだがら、何があってもおかしぐね」
「艦娘でもか?」
「艦娘でも弾があだったら死ぬのは同じだ、だからどうしでも行かせたぐねがったんだ」
「……でも、行がなきゃなんねのか?」
「そだ、多分……」
「……お、おれのせか? おれが余計なこど言ったからか?」

(浪江……)

何とも言えず済まなげで不安げなその顔が急に可愛らしく思えてきた隼太は、出来るだけ優しい声で応える。
「んでね、おめが言ったこどとは関係ね。おめは心配すんでね」
それを耳にした途端浪江の顔が嬉し気に輝き、やっと笑顔が戻る。
彼女なりにその小さな胸を痛めていたのだと思うとそれがいじらしく思えたので、そのままもう少し話し掛けてやる。
「浪江は、やっぱりまだ艦娘になってみでのか?」
「んだ! おれはやっぱり――」
と言いかけたのだが、途中で気が付いて口を噤むと義姉の方をちらとうかがって俯いてしまう。
「おめがなんがに憧れんのがわがねていうわげでゃあねぁ、あっぱはおめがでぇじだけぁ、死なせだぐねぁど思ってくらえただけだ」
兄が優しい口調でそう言うと、浪江は目だけを動かして義姉の顔を見る。
視線を合わせた義姉が頷いてみせると、浪江もおずおずと頷く。
「なんぼなりでど言ってもなれんのは1000人に1人だきゃ、浪江がなれっとは限らねぁし」
隼太がそう口をはさむと、母も
「んだな、まずむりだべな」
と相槌をうち、浪江は少々残念そうな顔をする。
「それにしだっで穂波ちゃんはせずねぇな、なんどがすけれねぁごったが」
兄がそう言いながら隼太の顔を見るが、彼もどうすればいいのか分からないのは同じだ。
ところが、ここで意外なことに父が口を開く。
「隼太、おめさえよげればおれから五十田さんの親御さんにそったる。行ぎたぐねのに皆の手前だけで行がねばならんごと、なんぼしだってむじぇな」
確かに父から穂波の両親に話してもらえれば、当然娘を戦場に行かせたくないと思っているご両親は、何とか断る方向で彼女と話あってくれるだろう。
そうなると逆に問題になってくるのは穂波自身の方だ。
いくら周囲が気遣ったところで、結局は彼女自身が自分だけが断ったという(一応まだそうと決まっているわけではないが)その負い目に耐えられるかどうかに掛かっている。
「おれ、もっかい穂波ちゃんと話してみで。それから頼んでもえが?」
「わがった、決めたら言え」
それだけ言ってしまうと、父はまた何の興味も無さそうな顔で食事に集中し始める。
それは彼ら家族の見慣れた光景でもあった。

(ありがとう、親父)

さすがに口に出すのは少々気が引けたので、心の中で言うだけにしておいた。

 その夜、早速穂波を誘ったところ彼女も隼太の意図を察してくれ、翌日会ってくれることになる。
こそこそとする理由も無くなったとは言うものの、やはり家の近所では落ち着いて話しにくいので、北上川の支流の川縁まで自転車を走らせた二人は、静かな川面を眺めながら話し合う。
「ご両親と話してどんな感じ?」
「うん、でも父も母もわたしと同じだったの」
「やっぱり自分だけ断るのは難しい?」
「うん……」
「――でも――命とは引き換えに出来ないよ……」
「――うん……」
「戦争に行った事は無いけどさ、弾とか避けようと思って避けられるものじゃない事位は分かるよ。だから恐ろしいんだ、もしそれが穂波ちゃんだったらって思ったら……」
「――わたしも怖い……」
「だったらやっぱり断るべきだよ。穂波ちゃんもお父さんお母さんも辛いだろうけど、もし死んじゃったらもう後悔すら出来ないよ――俺も、もし本当に穂波ちゃんがいなくなったりしたら――そしたら――それでも生きてられるかなって……」
「――わたしもだよ、隼太君とずっとずっと一緒にいたいよ――お別れなんて絶対に嫌だよ――だけど――」
「――だけど?」
「ひょっとするとね、美空望ちゃんは一緒に断ってくれるかも知れないけど、いぶきちゃんはもう行く積もりみたいだし、誰か行くんだったら雪乃ちゃんはきっと断らないと思うの」
「じゃあ、全員が断るっていうのはもう――」
「――うん、多分ないと思う……」
「もしそうなんだったらさ、穂波ちゃんと村越さんだけでも断るべきだよ、全員じゃないのは辛いけどでも――」
「隼太君」
「え、なに?」
「さっきね、避けようと思って避けられるものじゃないって言ったでしょ?」
「う、うん」
「誰か一人とか二人とかで戦場に行くのとね、四人で行くのとだったらどっちが良いと思う?」
「あ……」
「できたらね、全員で断りたいよ――でもね、それはもう無理かもしれないの。だったらね、一人だけとか二人だけとかで戦争に行かせるのっていいのかなって……四人で行ったからって弾に中らなくなるわけじゃないけど、でも四人が一緒にいれば、誰かが弾に中っても助けられるんじゃないかなって……」
「穂波ちゃん……」

情けなくて何も言えなかった。
彼は勝手に、穂波が自分の意見をはっきり言い出せない事が一番のネックなんだと決めつけていたのだ。

(情けない……俺は自分の事しか考えてなかった――穂波ちゃんは友達の事を考えてたのに……)

「ごめんね穂波ちゃん、俺恥ずかしいよ――自分の事しか見えてなくて、本当に恥ずかしいよ……」
「そんなこと言わないで、隼太君がわたしのこと本気で心配してくれるのすごく嬉しいよ。だからね――だから友達の事も考えられるんだよ、わたしの分まで隼太君が心配してくれるからだよ――隼太君がいてくれるからだよ」
そう言った穂波は彼の手をギュッと握りながら見つめてくる。
その瞳を見つめ返した隼太は、またしても自分が見えていなかったことに気付く。
彼女が朗らかになったとか明るくなったなどと(随分上から目線な言い草だと反省しているが……)軽く思っていたが、それはただ上っ面を見ているだけだったのだ。

(穂波ちゃんは明るくなったんじゃない、強くなってるんだ!)

そして彼女は隼太がいてくれるからだと言ってくれたのだ、だからこそ自分は強くなれるのだと……。
「穂波ちゃんは凄いな、俺ももっともっと頑張らなきゃいけないな」
「そんなこと無いよ! だって、偉そうなこと言ってるけどわたし――怖くて仕方ないよ――怖くて怖くて泣きそうだよ……」
「それでもやっぱり――しっかりしろよ俺! って思っちゃうよ、だって俺は穂波ちゃんが遠くに行ってしまうっていうだけでこんなに怖くて仕方ないんだから」
「ううん、一杯そう思って欲しい」
「え?」
「隼太君に一杯一杯そう思って欲しい――そうしたらまた、ちゃんと隼太君の傍に戻って来られると思うから……」
「もちろんだよ! 俺、穂波ちゃんの事何時でも考えてるから――24時間ずっと考えてるからね」
「うふふ、寝てる間もそうなのぉ?」
「うん、夢の中でも穂波ちゃんのこと考えてるよ!」
さすがに少々誇張はあるが、彼がしばしば穂波の夢をみるのは事実だった。
もちろんその大半は彼女に話せない様な中身ではあったが……。

「ありがとう隼太君――まだ決まったわけじゃないけど、でも――隼太君が思ってくれるだけ私も頑張れるよ」
「穂波ちゃん――」
互いの握った手に力がこもり、見つめあう瞳が輝く。
非常に不謹慎ながら思わず期待が盛り上がった隼太だが、間の悪いことに背後の駐車スペースに車が入ってきてしまう。

(ええ……)

「もう、隼太君⁈」
心中がっかりしたその落胆の色をつい顔に出してしまい、穂波が咎めるような声を出す。
「ご、ごめんよ」
素直に詫びる隼太の瞳をじろっとひと睨みした彼女は、片手の人差し指と中指を自分の唇に当てると、その指をそのまま彼の唇にサッと押し当てる。

(あっ!)

「今日はこれで我慢してね♪」
さらりとそう言い渡して微笑を浮かべる。
「う、うん」
あらためて思うが、何時の間にか彼女は強くなっていた。

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